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症例63:爪囲腫脹
(コーギー,12歳齢,去勢♂)

2015年5月四肢端に散在する皮疹がみられ、抗菌薬の内服とともに家庭にて頻繁に洗浄し装具使用等で対応するも両前肢の皮疹が持続、さらに跛行が生じプレドニゾロンで加療後2017年9月4日当科紹介受診となった。

臨床診断のポイント

爪囲に隆起を感じさせる紅斑がみられます。紅斑は炎症、腫瘍、また血行異常により生じる隆起に乏しい色調変化です。明らかな隆起といえない腫脹は紅斑の一部として扱われ、病理発生として細胞浸潤が予想される浸潤性紅斑、浮腫による腫脹がある浮腫性紅斑、さらに明らかな硬結を伴う結節性紅斑と呼称されます。自験例の腫脹に硬結はなく、一部に色素脱失を思わせる色調ムラがみられることから浮腫性紅斑と評価しました。浮腫性紅斑は感染症、免疫疾患、腫瘍等で生じます。自験例は爪囲に限局した発症であり、この領域に生じる疾患には外傷、感染症、腫瘍、皮膚炎、免疫異常、先天性疾患などがあります。自験例では複数の肢に発症し消長がみられることから腫瘍は否定的、外傷による感染症を疑いました。外傷の原因として自傷が持続する場合、局所的な機能異常や医療過誤、さらに常同行動に留意しています。感染症としてはブドウ球菌、皮膚糸状菌、マラセチア、ニキビダニに注目、年齢より合併症として内分泌失調を中心とした代謝性疾患や血行障害、あるいは常同行動の原因となる身体機能低下(脊椎症や関節症)に配慮が必要と思われました。

初診時方針のポイント

感染症の評価として、毛検査、細胞診、テープストリッピング、細菌培養検査、真菌培養検査を実施するとともに、合併症の評価として血液検査、T4測定、X線検査を実施しました。細胞診は非特異な好中球浸潤で、毛検査、テープストリッピングには異常ありませんでした。X線検査で罹患指軟部組織の腫脹をみるも他に特記すべき異常なし、血液検査はALPの著増とT4の低下がみられました。すべての検査結果が揃うまで、初診時治療として甲状腺製剤を処方しプレドニゾロンを減量、また家庭における前肢洗浄や靴下を控え、環境療法として活動機会を増やすよう提案しました。プレド二ゾロン漸減後爪囲の膿汁や黄色痂皮が生じ、細菌培養検査でメチシリン感性Staphylococcus intermedius groupが分離されました。 セファレキシンを内服で処方、これにあわせプレドニゾロンを休薬しました。紅斑は明らかに改善するも、依然として自傷が持続しました。慢性炎症による局所感覚異常を考慮しプレガバリンを処方、また常同行動に配慮しクロミプラミンを処方すると、自傷にも改善傾向がみられました。その後も不定期ながら爪囲自傷が消長、ご家族が頻繁に肢端に触れ、爪のケアをしていることが判明、その中止を指示すると自傷もなくなりました。