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症例60:肩の丘疹
(ボルゾイ,11歳齢,避妊♀) 甲状腺機能低下症があり甲状腺製剤による長期管理下にて平成29年4月3日当科定期検診、体調や皮膚に問題はないが右肩甲付近にしなやかな弾性を呈した丘疹を認めた。ごく最近気がつき、発症時期や経過は不明であった。 ![]() 臨床診断のポイント
1cm以下の隆起は丘疹と呼称され、炎症と増殖性疾患を検討します。炎症による丘疹は通常は紅色を呈します。ただし炎症でも、マクロファージの浸潤を特徴とする肉芽腫は必ずしも紅色ではなく、触れると弾性軟ながら充実性を感じます。紅色を欠く丘疹では、増殖性疾患に注目します。真皮を構成する結合織、神経、筋などによる間葉系組織の増殖は充実性病変を特徴とします。また表皮の増殖は、明らかな皮表の異常を認めます。皮下脂肪組織の増殖は病巣辺縁がなだらかな勾配を呈します。したがって自験例では付属器の増殖が予想されました。付属器は、毛包(漏斗、峡部、下部)、脂腺、汗腺に大別されます。自験例の褐色は脂腺の特徴である乳白色とは異なり、しなやかな弾性はケラチンを充填させる毛包よりも管腔構造をもつ汗腺を示唆しています。汗腺系の悪性腫瘍は明らかな境界を欠くことから、汗嚢腫や汗腺腫などの汗腺系良性増殖性疾患が疑われました。 初診時方針のポイント
増殖性疾患を疑う事例では、臨床診断に準じて方針を検討します。増殖性病変では方針を決定する情報収集のひとつとして細胞診が実施されます。ただし、ルーティン検査ではありません。汗腺系疾患は、腺分泌物の採取によりその特徴を確認できますが、どのタイプの腫瘍かはわかりません。汗腺系良性腫瘍は、予後として嚢腫の消長や緩徐な増生が予想されます。もし嚢腫の膨隆が著しければ、診断よりも対症療法を目的として針穿刺吸引をしています。汗腺系良性腫瘍は日常生活に異常を来すことが少なく、通常は経過観察を提案しています。定期的な検診により増大傾向がある場合、あるいはご家族の不安が懸念される場合、切除を提案しています。通常は局所麻酔によるパンチ生検を選択し、緊張の強い個体では鎮静を使用しています。 |