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症例59:肛門の潰瘍
(秋田犬,7歳齢,♂) 甲状腺機能低下症により甲状腺製剤にて長期管理されていたが、平成28年11月頃より肛門付近に出血がみられ、消毒とともにガーゼ等で保護するも軽快せず当科受診となった。 ![]() 臨床診断のポイント
皮疹は表皮辺縁の変性に乏しい潰瘍を伴う緩やかな隆起です。このような隆起は、真皮や皮下脂肪織を主体とした炎症、増殖、異物等により生じます。病因として外傷や異物を含む外的要因に配慮しながら、真皮の肉芽腫や増殖性病変を検討します。自験例の皮疹は肛囲にみられ、肛門嚢の位置に分布していました。肛門嚢内の分泌物充満による自傷、非特異な炎症、感染、構造破壊による異物反応、さらにその周囲脂肪組織の非感染性炎症などが鑑別です。鑑別疾患が肛門周囲瘻や肛門周囲腺腫です。前者は真皮化膿性炎症による瘻孔形成を特徴とします。一方肛門周囲腺腫は肛門周囲に分布する脂腺由来分泌腺の増殖であり、脂腺そのものが組織学的に脆弱であることから出血や潰瘍を形成しやすい疾患です。自験例は未去勢雄であり、出血を来す円形腫瘍や血管腫瘍も考慮しながら肛門周囲腫を予想しました。 初診時方針のポイント
いわゆる直腸検査により、病巣の位置や形態の把握、肛門嚢との関係を把握する必要があります。直腸にひとさし指を挿入し外方から親指で病巣を挟み、触知によりその位置と構造を把握します。自験例では真皮を中心にやや不整な球形を呈していました。その近傍に肛門嚢が触知され、形態や弾性に異常はありませんでした。両者に連続性がないことから肛門嚢疾患の関与は否定的でした。病巣は弾性軟であり、肛門周囲腺腫や円形細胞腫瘍に合致していました。これらを鑑別するには針穿刺吸引生検が有用です。細胞の由来とともに、悪性所見の有無を評価します。自験例で採取された細胞はシート状を呈した上皮細胞でした。大小の類円形細胞と、脂質滴を有した豊かな細胞質をもち良性の脂腺由来腫瘍細胞に合致していました。 |