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(柴犬,1歳齢,避妊♀)
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症例55:頸部の脱毛
(柴犬,1歳齢,避妊♀) 平成27年9月子宮蓄膿症、外科処置後カラーを装着、エンロフロキサシンで治療中に頸部腹側のかゆみと脱毛斑が生じ、プレドニゾロン、イベルメクチン、セファレキシン、外用配合クリームで治療後徐々に拡大し当科紹介受診。散歩時に強く引き息が苦しそうなので、最近首輪をハーネスに変えた。 ![]() 臨床診断のポイント
自験例の脱毛は境界が不明瞭、やや皮膚が紅く感じますが特徴的な原発疹を欠いていました。したがって毛や毛包の病的状態の典型とは言えず、毛周期異常を疑いました。毛周期は、遺伝的素因とともに身体因や環境因など様々な要因が関与し、一過性に生じることも知られています。自験例は内分泌失調や代謝性疾患を示唆する明らかな不調を認めず、発症に先だって麻酔、手術を受けていたことから、代謝イベントによる毛周期異常(休止期脱毛状態)が疑われました。毛周期異常は通常広範に発症しますが、自験例では装具による皮疹の偏在と推察しました。鑑別疾患として毛包性感染症、また外用ステロイドの影響を考慮しました。 初診時方針のポイント
休止期脱毛状態の評価には皮疹と病歴が重視され、鑑別疾患の除外を目的とした検査が行われます。自験例では毛包性感染症に対し、毛検査、テープストリッピング、皮膚掻爬検査、細胞診を行いました。ニキビダニ症ではダニを検出できないことがあり、確実な除外には皮膚生検が有用です。一過性のイベントによる休止期脱毛状態は自然軽快するので、実地的には経過観察が診断の裏付けになります。その際に対症療法として育毛の促進に有用な処方を案じますが、個人的には薬物療法よりも、身体及び生活ストレスの評価とその排除に留意しています。自験例では、散歩の様子からご家族へ飼育指導を行いました。 |