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症例53:多発する隆起性皮疹
(パグ,10歳齢,避妊♀)

約2年前より夏に悪化する皮疹を腹部に認め平成24年2月当科紹介受診、膿皮症と診断しケフレックス、ノルバサンスクラブで略治、同年12月に頭部、肩、胸部、大腿に丘疹や結節が散在した。

臨床診断のポイント

隆起性皮疹は1cm以下を丘疹、それ以上を結節と呼び、これらはいずれも病理発生の主体が炎症と腫瘍です。形態、色調、毛包の配置、さらに触診(組織学的部位、広がり、弾性)等により評価します。自験例は皮表に突出していることから、少なくとも炎症や浸潤性を特徴とする悪性腫瘍にはみえません。したがって良性軟部組織腫瘍ないし円形細胞腫瘍が鑑別です。表皮に明らかな増殖はなく、健常な被毛を有した毛包間が拡張、また色調として紅色と色素脱失が混在していることから円形細胞腫瘍が疑われました。特にむらのある淡紅色や血痂、さらに高齢のパグで多発性に生じていることから肥満細胞腫が予想されました。

初診時方針のポイント

肥満細胞腫疑いでは、皮疹に物理的負荷を与えダリエ徴候の有無を観察しています。円形細胞腫瘍は針穿刺吸引生検による転移のリスクも少なく、細胞診による評価が有用です。皮膚組織球腫や形質細胞腫に合致していれば、即切除とせず経過観察も提案しています。リンパ腫に合致していれば診断を目的とした切除生検、そして肥満細胞腫に合致していれば治療を目的とした切除生検を提案しています。自験例の細胞診所見は肥満細胞腫に合致していたので、血液検査、X線検査、腹部超音波検査、体表リンパ節の評価を行った後、日を改めて治療を兼ねた切除生検を実施、組織はグレード2の肥満細胞腫でした。パグは他の犬種に比べ明らかな肥満細胞腫の好発性が指摘されています。また多発例は通常10-15%であるのに対して、パグではなんと56%です。