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(ジャックラッセルテリア,12歳齢,♂)
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症例47:犬の赤い病変
(ジャックラッセルテリア,12歳齢,♂) 既往歴として、幼少時のニキビダニ症と夏に反復する頸部皮膚炎がある。平成25年11月に頭部背側から臀部にかけて赤い病変が生じ近医受診、抗菌薬やシャンプー等で治療するも漸次拡大し同年12月25日当科紹介受診。 ![]() 臨床診断のポイント
赤い病変は循環血流量の増強を示唆し、これは生理的および病的に生じます。後者では炎症が多く、浸潤細胞の組織学的分布や程度により様々な隆起や色調を呈します。その病因は感染および非感染に大別され、犬では圧倒的に感染が多く、膿皮症、ニキビダニ症、皮膚糸状菌症、マラセチア皮膚炎が日常的です。これら疾患は、寄生体と宿主の関係により、特徴的な皮疹を示します。自験例の皮疹は均質な淡い紅斑(限局的な発赤)で、毛包に付着した黄褐色の鱗屑(ふけ)とややむらのある色素沈着、そして軽微な毛孔性丘疹と脱毛もみられます。膿皮症では、炎症が通常遠心性に拡大し、中心に色素沈着を残します。ニキビダニ症ではこのような紅斑を呈すも、色素は毛孔性に強調されています。マラセチア皮膚炎では、皮表全体に脂漏と鱗屑を認めます。残る皮膚糸状菌症はMicrosporum canis感染が多く、通常は強い炎症を特徴としています。自験例の紅斑は腫脹や隆起を強調せず、ヨークシャーテリアではこのような皮疹を例外的に認めます。同じテリア種であるジャックラッセルにも同様の皮疹が生じる可能性を予想し皮膚糸状菌症を疑いました。なお年齢的には内分泌疾患を含めた種々内科、神経整形外科疾患、また部位的にはノミ等の関与についても配慮が必要でした。 初診時方針のポイント
皮膚糸状菌症の評価では、皮疹部における菌の増殖が重視されます。最も有用な検査が鏡検です。顕微鏡による真菌要素の観察には経験を要すも、M. canis感染症は比較的評価が容易です。まず菌要素を確実にサンプリングする必要があります。M. canisは毛幹に感染するも、病変に一様に感染しているわけではありません。したがって一部の毛を抜いたサンプリングにはギャンブル性があります。そこで#10の外科用メス刃(刄が丸みを帯びて扱いやすい)を用意し、皮疹皮表全域を優しく掻爬し、脆く折れやすい感染毛を集めます。掻爬前にスライドグラスにミネラルオイルをのせ、サンプリングに際してメス刄にオイルをつけると採取が容易です。サンプルをスライドグラスに移し、カバーグラスをのせて検鏡します。鏡検では、まず弱拡大(4~10倍対物レンズ)で毛の構造を観察します。典型的なM. canis感染毛は、本来の構造と色調を失い、健常毛との違いがわかります。これを強拡大(40倍対物レンズ)すると、きらきら輝く石垣状に配列した真菌要素を観察できます。なお鏡検に際してKOHやDMSOが使用されますが、これは毛の構造を壊すことから毛の観察には不向きです。皮膚糸状菌の同定には真菌培養検査を使用します。ウッド灯検査は一部の真菌しか陽性を示さないことから、陽性時に限って診断に貢献し、この場合治療による菌要素の残存を観察することができます。自験例では上記検査によりM. canisが検出されました。なお同時に毛検査、皮膚掻爬検査、細菌培養検査、血液検査を実施しましたが、特記すべき異常はみられませんでした。以上より、M. canis感染症と診断しました。 |