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症例46:猫の肉球腫脹
(雑種猫,1歳齢,避妊♀)

平成25年1月(8ヵ月前)より四肢掌球がかさかさし、3月に両前肢掌球の色素失調がみられた。5月になると腫脹(写真)し同年8月当科紹介受診となった。左掌球に紫青色腫脹がみられ、右前肢掌球にも軽度ながら同様の皮疹がみられた。

臨床診断のポイント

隆起性病変はサイズによって丘疹(直径1cm以下)、結節(直径3cm以下)に大別され、さらに結節を超える大きな細胞の増殖傾向は腫瘤と呼ばれます。隆起は通常炎症あるいは増殖性疾患により生じ、腫瘤は悪性腫瘍を指します。炎症では、皮表に紅斑、自発痛、圧痛等を有し、腫瘍では通常これら所見を欠きます。また炎症は偏在性および対称性に生じるも、良性腫瘍は対称性の発症を特徴としません。自験例の結節は出血やうっ血を思わせる紫青色を呈し、さらに両前肢の掌球に両側性に発症していることから、炎症性疾患に合致していました。また発症部位が前肢掌球に限局していることから形質細胞肢端皮膚炎と診断しました。鑑別および病因として感染症、腫瘍とともに、物理的負荷(運動、爪研ぎ、トイレ掃除等)や先天的素因(血管系、免疫系、結合織系の特性)の関与を考慮しました。

初診時方針のポイント

形質細胞肢端皮膚炎の確定診断には皮膚生検が有用です。本症では真皮内に多数の形質細胞浸潤を認めます。なお肉球の生検は、切除後の癒合不全を心配される方がいますが、少なくとも当科にて本症の生検にて問題が生じたことはありません。皮膚生検とともに血液検査を実施しています。本症では血清蛋白、特にグロブリンの上昇を認め、これは血清蛋白電気泳動にてポリクロール高ガンマグロブリン血症を呈します。自験例では皮膚生検で真皮内に形質細胞の浸潤が顕著にみられ、一部にラッセル小体が観察されました。血液検査では血清蛋白が9.9、血清蛋白電気泳動で高ガンマグロブリン血症がみられました。また炎症マーカーSAAについてはこれまであまり触れられていませんが、自験例では上昇傾向(2.7)がみられました。鑑別として考慮すべき感染症については細菌および真菌培養検査を実施、また本症における局所ウイルス感染も指摘されていることからFIVとFeLV検査も実施、自験例ではいずれも陰性でした。