Top page > Members Only > 症例45:犬の脱毛斑 (ミニチュア・ブルテリア,5歳齢,♀)
症例45: 犬の脱毛斑
(ミニチュア・ブルテリア,5歳齢,♀)

1ヵ月前より左側頭付近に皮疹が生じ近医受診、抗菌薬にて治療するも漸次悪化し当科紹介受診となった。病変は左側頭とともに、左肩甲付近(写真)、左後肢端、左手根にもみられた。既往として幼少より耳の汚れがみられる。

臨床診断のポイント

病巣には、脱毛とともに紅色を呈した様々な大きさの丘疹や結節がみられます。また一部に瘻孔を形成し、血様膿汁の排出が認められます。隆起性皮疹はその大きさで丘疹と結節に区分され、一般に直径1cm以内が丘疹、1cm以上を結節と呼んでいます。隆起性皮疹は皮膚構成細胞要素の増加、真皮の細胞浸潤、物質の沈着などにより発症します。多くは炎症による隆起であり、この場合ピンク色ないし紅色を呈します。また病巣の位置は表皮性、表皮真皮性、真皮性に区分され、これは皮表の性状や触診により評価できます。自験例では表皮の変化に乏しく、真皮から突き上げる大小の赤い隆起、さらに脱毛を特徴とし、一部に瘻孔と膿汁を認めることから、毛包を起点とした周辺真皮の構造破壊を伴う広範な化膿性炎症が予想されました。日常的な疾患としては深在性膿皮症(よう)、ニキビダニ症、ケルスス禿瘡、また鑑別としてその他のまれな細菌や真菌による非毛包性感染症を疑いました。なお左側に強調された皮疹の分布は、物理的なすれや自傷等の外的要因が予想され、特に外耳との関係に配慮が必要と思われました。

初診時方針のポイント

毛包性感染症の評価として、毛検査、皮膚掻爬検査、膿汁の細胞診、細菌培養検査、薬剤感受性試験、真菌培養検査を行いました。ニキビダニや皮膚糸状菌はみられず、細胞診でグラム陽性ブドウ球菌が観察され、細菌培養検査と薬剤感受性試験でセファレキシン耐性ミノマイシン感性Staphylococus intermedius Groupが分離されました。また感染症の基礎疾患を検討すべく血液検査、尿検査、膣細胞診を行いましたが、CRPや白血球の上昇以外に特記すべき異常はみられませんでした。なお両耳道に耳垢と苔癬化による狭窄がみられ、特に左側の症状が顕著でした。偏在する皮疹の原因のひとつとして、身体ストレスや精神的要因の関与を予想しました。