Top page > Members Only > 症例44:猫の爪囲皮疹(雑種猫,3歳齢,避妊♀)
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症例44:
猫の爪囲皮疹
(雑種猫,3歳齢,避妊♀) 1年前より耳に皮疹を認めステロイド注射を反復して行うも軽快せず漸次拡大、血糖値の上昇が生じ当科紹介受診となった。皮疹は耳介以外に、下顎や爪囲(写真)にもみられた。 ![]() 臨床診断のポイント
爪囲に付着物がみられます。皮表付着物は鱗屑(ふけ)と痂皮(かさぶた)に大別されます。前者は健常皮膚に分布する表皮角層の剥脱物(表皮最外層に分布する角質細胞)であり、後者は健常皮膚にはみられない浸出液、血液、膿または壊死組織が凝固付着した状態です。前者は粃糠状(粉状)から乾癬様(雲母状)を呈し、乾燥していると白色を基調とし、脂肪分が多いと黄色を帯びます。一方、後者は成分により構造も色調も多彩で、血液を混じると茶色または暗赤色となり、膿性内容物では黄灰色を呈します。自験例でみられた付着物は不整な構造であり、白色ではなく、蜂蜜を思わせる色調を呈していたことから、膿性内容物(膿疱症)が予想されました。化膿性病変ではまず感染症を考慮しますが、猫の爪囲に一致した膿疱症ではいわゆる落葉状天疱瘡が予想されます。 初診時方針のポイント
天疱瘡は表皮細胞間接着分子に対する自己免疫水疱症であり、表皮細胞間の離開によって水疱、犬や猫では膿疱が形成されます。したがって膿疱内や痂皮内に、角化していない有核表皮細胞を認めます。この細胞は棘融解細胞と呼ばれ、皮膚生検による病理検査とともに細胞診により評価することが可能です。また免疫学的検査として、生検にて採取した皮膚組織を凍結固定し蛍光抗体直接法、あるいは血清を採取し蛍光抗体間接法が実施されます。なお棘融解は自己免疫異常以外に、細菌や真菌の感染によって生じることも報告され、感染症に配慮した細胞診(直接塗抹、テープストリッピング)、皮膚掻爬検査、毛検査、細菌および真菌培養検査が有用です。自験例ではこれまでステロイドで治療されており、また血糖値の上昇も指摘されていることから、血液検査、尿検査も必要です。 |