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症例35:腹部の脱毛
(短毛猫,7歳齢,避妊♀)

平成22年10月初旬より眼囲や下顎等が黒く汚れ近医受診、その後頸部や腹部を中心に脱毛が生じ元気がなくなった。食欲はあるが体重が減少し、同年11月9日当科紹介受診となった。頸部腹側、腋窩、腹部から大腿、肢端に脱毛がみられ、大腿付近では皮膚に光沢が観察された。

臨床診断のポイント

脱毛は先天性および後天性に大別され、後者の病態は毛周期異常、毛包の病的状態、毛幹の病的状態に区分されます。猫では圧倒的に毛包の病的状態が多く(外傷性脱毛症、Microsporum canis感染)、これらはいずれも皮表に短く折れた毛を有しています。自験例の皮表にはまったく毛を認めず、羸痩もみられたことから、全身性疾患による毛周期異常による脱毛が疑われました。その病因として内分泌疾患に配慮が必要であるも、自験例では腫瘍随伴性脱毛症に合致した光沢が観察されました。

初診時方針のポイント

非日常的な脱毛症の評価として皮膚生検を実施するとともに、全身性疾患の評価を目的に血液検査、血液化学検査、尿検査が必要です。また内臓腫瘍の精査を目的として、画像検査(X線検査、超音波検査)、さらに全身麻酔に耐える状態であればCT検査を実施すべきでしょう。なお鑑別である内分泌疾患の評価としては、クッシング症候群に配慮したACTH刺激試験、甲状腺機能亢進症に配慮したT4値の測定が必要です。自験例は皮膚病理が腫瘍随伴性脱毛症に合致、膵臓腫瘍が認められました。