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症例3:腹部の紅斑(雑種犬、10歳齢、避妊♀)

約2カ月前に下眼瞼と腹部に赤い皮疹を認め、漸次悪化拡大し平成12年7月24日近医受診。抗生剤でやや改善したが皮疹が持続し、同年8月15日当科紹介受診となった。略全身に鱗屑(りんせつ)を伴う発赤(写真)が観察された。皮疹部では脱毛や薄毛を認め、一部には局面様皮疹が散在していた。また鼡径リンパ節の腫大がみられた。
臨床診断のポイント
限局的な紅色を紅斑と呼びますが、自験例ではび漫性に紅色を認め、さらに皮表に重厚な鱗屑(いわゆるふけ)がみられました。このような鱗屑をともなう潮紅(ちょうこう)を剥脱性(はくだつせい)皮膚炎あるいは紅皮症(こうひしょう)と呼称しています。この皮疹は皮膚リンパ腫や薬疹で認められます。自験例では薬剤歴がなく皮膚リンパ腫が疑われました。なお高齢であることから、鑑別および合併症として感染症や内臓疾患による皮疹を考慮しました。
方針のポイント
紅皮症では皮膚生検が有用です。自験例では組織学的に表皮向性を示す異型リンパ球の浸潤がみられました。なお鑑別を考慮した検査として、毛検査、皮膚掻爬検査、真菌培養検査、血液検査、血液化学検査が汎用されます。当然ながら、腫瘍症例では全身的な腫瘍の検索を提案しています。皮膚リンパ腫は予後不良の疾患であり、Tcell由来の生存期間は平均11カ月と報告されています。自験例ではQOLを考慮した姑息的治療を選択され、プレドニン、チガソン、Hills n/dを処方しましたが、漸次悪化し発症7カ月後に安楽死となりました。
参考文献
獣医臨床皮膚科 9;27-28, 2003.