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症例25:躯幹の脱毛
(チワワ・ブルー,5カ月齢,♀)

生後2カ月頃より頭頂の毛が薄くなり、耳介や背中に拡大、平成19年8月5日近医を受診するも改善なく、同年11月13日当科紹介受診となった。脱毛は頭頂、耳介、躯幹の黒色被毛領域に一致していた。
全身状態に特記すべき異常はなかった。

臨床診断のポイント

 脱毛とは発毛が疎または完全に欠落している状態であり、先天性と後天性に大別されます。先天性疾患は生下時より認識される外胚葉形成異常に関連した脱毛と、生後数ヵ月より異常が認識される脱毛症に区分されます。日常診療で経験するのは通常後者であり、身体発育遅滞を伴う毛周期の異常(先天性内分泌異常)と身体異常を伴わない脱毛症があります。後者は毛色に関連した脱毛症と毛色に関連しない脱毛症に区分されます。自験例は生下時健常と思われた被毛が徐々に薄くなり、身体発育遅滞はなく、脱毛は黒色被毛領域に限定していたことより毛色に関連した脱毛症(カラーダイリューション脱毛症Color Dilution Alopecia;CDAや黒色毛包発育異常症Black Hair Follicular Dysplasia;BHFD)に合致していました。なお年齢からは先天性疾患以外に感染症や栄養失調が鑑別です。

初診時方針のポイント

 CDAは淡色化被毛領域、またBHFDは黒色被毛領域の脱毛を臨床的特徴としていますが、これら疾患はいずれも毛検査、あるいは皮膚生検により共通した形態学的異常を呈します。毛検査では毛幹内粗大メラニン色素塊や歪んだ毛構造が観察され、皮膚生検では毛や毛包内の粗大メラニン色素塊および毛包周囲メラノファージ浸潤が観察されます。粗大メラニン色素塊は毛包休止期にも生じることから、成長期毛包に上記所見を認める必要があります。もちろんこれら検査により、鑑別および合併症として留意すべき細菌性毛包炎、ニキビダニ症、皮膚糸状菌症の評価も可能です。栄養失調については食餌歴の聴取、身体検査、血液検査、便検査が必要です。