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症例21:頸部の色素斑
(シーズー,6歳齢,♀)

 平成18年11月頃より皮膚病がみられ近医受診。多飲があり、糖尿病疑いで精査するも異常なく、毛がよく抜けるようになり平成19年4月6日当科紹介受診。略全身に広範な薄毛、皮膚の菲薄化、面皰がみられ、頸部には採血領域に色素斑が観察された。

臨床診断のポイント

 限局した非隆起性の色調変化を斑(はん)と呼びます。充血や毛細血管の拡張は紅斑(こうはん)、皮内出血は紫斑(しはん)、メラニン色素の増加などは色素斑(しきそはん)と呼ばれます。成熟した皮疹ではそれぞれ名称通りの色調を呈しますが、早期疹や陳旧化病変では評価に苦慮することもあります。自験例の皮疹はくすんだ赤色で紫斑に合致しています。紅斑と鑑別が困難な場合には硝子圧法(ガラス板による皮膚圧迫)が有用です。退色した場合は紅斑、退色しない場合は紫斑です。紫斑は、血管壁の破綻として外傷、血管の脆弱性、血管炎、さらに血管内異常として凝固系疾患などで認めます。
自験例では採血領域にみられた紫斑であり、血管の脆弱性(先天性;エーラスダンロス症候群、家族性虚血性皮膚障害、後天性;血管炎、クッシング症候群、ステロイド皮膚症)および血管内異常が鑑別ですが、紫斑周囲に脱毛や皮膚の菲薄化、さらに多飲も認められたことから、クッシング症候群の関与を重視すべきです。

初診時方針のポイント

 クッシング症候群を疑う場合、多臓器の評価として血液検査、血液化学検査、尿検査、胸腹X線検査などが実施されます。また副腎予備能の評価としてACTH刺激試験、さらに鑑別すべき内分泌疾患に対して、少なくともT4、膣スメア細胞診が行われます。血管の脆弱性を示すクッシング症候群以外の疾患にたいしては、いずれも皮膚生検が有用です。なお血管炎は多因性疾患であり、薬物や感染等を抗原とした発症を視野に入れた臨床的評価とともに、自己免疫異常の評価として抗核抗体検査、さらにエリテマトーデスの合併に配慮した諸臓器(特に関節、腎臓、血液)の精査も必要になります。出血を来す血管内異常に対しては、凝固系の精査が有用です。このように紫斑では非日常的な疾患が多く、しかもきわめて多角的な評価が要求されます。なおクッシング症候群が疑われる症例では、感染症に対する検査や抗生剤による治療的評価が常に必要です。