Top page > Members Only > 症例19:腹部の掻破痕(シーズー,6歳齢,♀)
症例19:腹部の掻破痕(シーズー,6歳齢,♀)

 3歳頃より耳や鼠径に皮疹がみられ、近医にて長期加療されていた。かゆみが漸次悪化拡大し転院、アレルギーや感染症を疑いステロイドや抗生剤の内服とシャンプーで治療するも腹部皮疹が軽快せず平成11年4月当科紹介受診。

臨床診断のポイント

 皮膚の欠損はその深さによりびらんと潰瘍に大別され、また病理発生学的に物理的刺激による表在性皮膚欠損を表皮剥離 (ひょうひはくり)と呼んでいます。欠損が浅い場合(びらん)と漿液、深い(潰瘍)と血液を認めます。その病因は外傷と自傷に区分され、後者はかゆみの肉眼的マーカーになります。もちろん自傷はかゆみという感覚異常にとどまらず、精神症状として生じることもあります。自傷の皮疹は分布と形態が多様です。咬む場合は肢端や腰部等に不整な斑状皮疹を、後肢で掻破する場合はその走行に沿った線状皮疹を呈します。自験例の皮疹は後肢を用いた掻破痕に合致しており、躯幹腹側にかゆみを訴える皮膚疾患(先天的要因、皮膚炎、感染症)、あるいは身体疾患(神経疾患、筋骨格疾患など)や精神疾患を考慮しました。

初診時方針のポイント

 かゆみを考慮した検査や治療的評価とともに、かゆみ行動を誘導する身体疾患の評価を行います。検査として、皮膚掻爬検査、毛検査、皮膚生検、血液検査、IgE検査(アラセプト)、甲状腺ホルモン検査、画像検査など、またシャンプー、抗生剤、除去食、ノミ防除などの治療的評価が有用です。これらの検査により身体疾患を否定し精神疾患を診断することができますが、検査によるストレスで病状を悪化させることもあります。かゆみ行動を呈す精神疾患の臨床的評価として、以下の診断基準も有用です;1)自傷に合致した皮疹、2)特異な発症パターン(特定の状況におけるかゆみの消長)、3)精神病理(発症に関与しうるライフイベントないし精神症状)の存在。