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症例13:躯幹の局面(シーズー,8歳齢,♀)
4歳齢より皮膚病がみられ、近医にてスキンケア、抗生物質、ステロイドで治療されていた。平成14年6月に皮疹が悪化し、同様に治療されたが、同年10月腋窩および鼠径にこれまでとは異なる皮疹が生じ、同月29日当科紹介受診。腹部、腋窩に痂皮、鱗屑を伴う白色を帯びた淡紅色の不整かつ境界明瞭な固い隆起性皮疹が認められた(写真)。指間には軽度の落屑性紅斑がみられた。
![]() 臨床診断のポイント
幅広く扁平に隆起する皮疹、あるいは丘疹が広がり大きな面積となった状態を局面(きょくめん) と呼び、表皮真皮の浮腫や浸潤、また真皮性丘疹の融合により形成されます。犬では一般に炎症、腫瘍、異物などに起因しています。炎症では、通常紅色ないし常色の比較的均質な皮疹を呈す傾向があります。腫瘍は、炎症に類似した隆起を呈す皮膚リンパ腫や肥満細胞腫、さらに表皮を圧排し不整に隆起する汗腺系悪性腫瘍や転移性皮膚腫瘍を予想します。自験例の皮疹は炎症の特徴を欠いた淡紅色の不整な隆起を呈し、腫瘍にはみられない小硬結の散在がありました。異物では、皮膚石灰沈着症が最も日常的です。癒合性に石灰化が生じると皮疹は不整に隆起する白い大小の硬結を呈し、石灰化が真皮内に散在するとそれを囲む炎症の紅色が混在した淡紅色を呈します。石灰沈着の深さや程度は多彩なので、前者と後者が混在することもあります。以上より、自験例の皮疹は皮膚石灰沈着症が示唆されました。初診時方針のポイント
皮膚石灰沈着の病態は多彩で、異栄養性、代謝性(慢性腎疾患)、特発性(陰嚢、舌)に生じます。異栄養性は局所性および汎発性に大別され、後者ではクッシング症候群が重視されています。したがって初診時に血液検査、血液化学検査、尿検査、さらに発症に先立って薬物歴があることから、クッシング症候群の病因検討としてACTH刺激試験を実施する必要があります。なおステロイド治療の対象となっていたかゆみの原因として感染症、脂漏性皮膚炎、本態性脂漏症等が予想され、毛検査、皮膚掻爬検査、細胞診、血清IgE検査およびこれら疾患に対する治療的評価が必要です。 |