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症例12:耳介の紅斑(シーズー,2歳齢,♀)

1年前より耳や指間のかゆみがみられ、近医にて外用薬で加療されていたが、平成12年6月頃より悪化、カラー装着などで対応するもかゆみが持続し、同年8月23日当科紹介受診となった。初診時現症として、指間や耳介に脂漏を伴う紅斑がみられた(写真)。
臨床診断のポイント
発赤や紅斑は毛細血管拡張および充血による変化であり、原因として局所的な外傷や種々の刺激とともに、感染症やいわゆる皮膚炎を検討します。感染症では環状皮疹を認めることが多く、いわゆる皮膚炎では体質や基礎疾患により多彩な皮疹像を呈します。自験例では指間や外耳という皮脂の集積しやすい領域に皮疹が分布し、皮脂の沈着も認められます。医学領域では毛包脂腺系が発達した脂漏部位に分布する皮膚炎を脂漏性皮膚炎と呼称しています。犬では皮膚全域で毛包脂腺が発達していますが、皮脂は脂漏犬種(シーズーやコッカースパニエルなど)の間擦部 (腋窩、鼠径、頸部腹側、指間など)や外耳に蓄積する傾向があり、これら領域に生じる皮膚炎を脂漏性皮膚炎と呼ぶことができます。わが国では高温多湿の梅雨や夏に発症ないし悪化しやすく、自験例の臨床像は本症の典型といえます。
脂漏性皮膚炎の病理発生は不明ですが、人では皮脂分泌機能異常、好脂質性常在酵母菌であるマラセチアなどの関与が指摘されています。犬では本症の皮疹からマラセチアが分離されやすく、さらに抗真菌薬が有効であることから、本症がマラセチア皮膚炎と呼ばれています。しかしマラセチアには様々な種があり、さらに宿主側病態も皮膚バリア機能障害や免疫応答等多彩であることを考慮すると、円滑な診療にはマラセチア皮膚炎という病態的疾患名よりも臨床像に注目した脂漏性皮膚炎という記載皮膚科的疾患名の方が適切と思われます。
初診時方針のポイント

脂漏性皮膚炎では脂漏や炎症の対症療法とマラセチアを考慮した抗真菌薬が有用であり、軽中等症例では1週間ほどで劇的な改善を認めます。したがって本症の評価として短期的な治療的評価を実施します。対症療法として皮膚では二硫化セレンやクロルヘキシジンをベースにしたシャンプー療法を、耳道では0.05%クロルヘキシジン液や耳垢溶解液を選択します。抗真菌薬として、皮疹が限局的な場合は外用のケトコナゾールやテルビナフィンを使用しています。汎発性に皮疹を認める場合には、ケトコナゾール 5mg/kg SIDやイトラコナゾール5-10mg/kg  SIDの内服を処方しています。

獣医臨床皮膚科 11;75-76 2005.